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東京地方裁判所 昭和56年(レ)237号・昭56年(レ)166号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

1 本件建物は、大正一五年に新築された平家建の木造家屋であつて、築後長期間が経過しているため、相当程度老朽化し、諸所に補修を要する個所が見受けられるが、いまだ居宅としての使用は可能な状態にあること、

2 被控訴人の弟である精陸は、昭和二三年六月一五日生で、原告の実家でもある東京都北区岩淵町二五番四号所在の兄斉藤善吾方に同居し、同人の経営する家業の米穀店の手伝いをしており(この事実は、当事者間に争いがない。)、同人方は本件建物から一〇〇メートル以内の距離にあること、精陸は、現在独身であるが、結婚後も引き続き右家業の手伝いを続ける予定であるところ、同人方は、精陸のほかに被控訴人の母斉藤アグ、姉宇田川安代及びその子二人(大学生)が同居しているため手狭であり、精陸が結婚した場合には、その妻とともに斉藤善吾方に同居することは困難であり、他に新居を構える必要があること、

3 控訴人は、昭和四四年から内縁の夫である遠藤とともに東京都世田谷区上北沢四の一三の一大晃マンションに居住して同所を生活の本拠としていたこと、

4 本件建物には、もと控訴人の母ヤヲイが居住していたが、同人が昭和五〇年一月二八日に死亡し、控訴人が本件建物の賃借人の地位を承継した後昭和五七年四月ころまでの間は、本件建物内に控訴人はそのタンス、冷蔵庫その他の家財道具類を蔵置していたものの、これに住むことなく、月に二、三回程度本件建物の見廻り等に訪れていたにすぎないこと、

5 なお同年四月以降も、控訴人は前記大晃マンションをも生活の場とし、前記遠藤は中野区内の貸室を賃借使用していること、

以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

被控訴人は、防災上の見地から本件建物を取り毀す必要があると主張するが、本件建物が現状において倒壊、その構成部分の脱落その他防災上危険な事態を生じさせるおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、右の見地から本件建物につき差し迫つた取り毀しの必要があるものということはできない。

また、被控訴人は、精陸が近く結婚する予定であり、本件建物の跡地に同人の結婚後の新居を建築する必要があると主張し、同人が結婚した場合には、その同居先である斉藤善吾方を出て他に住居を求める必要があることは前示のとおりであるものの、精陸が結婚することが具体的に予定されていることを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人の右主張はその前提を欠くものといわなければならない。

以上の事実によれば、本件建物の老朽化状況等に照らし、本件建物を取り毀してその跡地に二階建その他の家屋を新築した方がその敷地の利用方法としては効率的かつ合理的であることが認められるけれども、さらに進んで防災上の見地から本件建物を取り毀す必要性又は、被控訴人若しくはその親族が使用する家屋を本件建物の跡地に新築する必要性は現在のところ直ちには認め難いのであるから、右の事実関係の下においては、本件解約の申入れにはそれ自体で借家法一条の二にいわゆる自己使用の必要その他正当の事由があるものということはできない。

しかしながら、他面、控訴人は、前記解約申入れ当時、本件建物以外に生活の本拠を有し、本件建物は単に家財道具の置き場としてのみ使用し、将来本件建物に居住することがある場合に備えて本件建物を見廻るなどして本件建物を管理していたに過ぎないのであるから、控訴人側にも解約申入後も引き続き本件建物を使用する必要性は殆んど認め難いものというべきであつて、以上の事実関係を総合考慮すれば、控訴人が本件建物から他に転居するために要する費用を填補するものとして相当額の立退料が支払われるならば、前示の事情に加えて右立退料の支払を正当事由の補強事由とすることにより、前記解約の申入れは、正当事由を具備するに至るものというべきである。

そして、控訴人が昭和五六年六月八日の原審口頭弁論期日において五一万二〇〇〇円の立退料を提供する旨を申し出たことは記録上明らかであり、右金額は、前記認定事実及び本件賃貸借契約の賃料、本件建物の床面積、立地条件、控訴人の家族関係その他本件口頭弁論に現われた諸般の事情に照らし本件における正当事由を補強するための立退料として相当な金額であると認められる(なお、請求原因5(三)(4)の(イ)、(ロ)記載の立退料は、右事情に照らし低額に過ぎるものというべきである。)。

(薦田茂正 柳田幸三 根本渉)

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